わたしたちへ

これはカネコアヤノのライブ帰りの電車で書いたもの。即出ししてみる。なんとなく。言葉の鮮度。

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客席ライトが落ちてからアヤノちゃんが出てくるまで心地よい緊張感があった。

一曲目の『どこかちょっと』が始まってアヤノちゃんの一声目で頬に涙がすーっと伝っていくのを感じた。私はとても自然に泣いていた。

 

静寂と暗闇の中にぽつんとアヤノちゃんだけがライトに照らされてそれを見つめているときだんだんと自分がこの空間に没入していくのがわかった。とてもここに2000人もの人間が居るとは思えなかった。広くて静かな暗闇で私とその光だけのような気がした。それは、いつかの真っ暗な部屋の片隅で小さな蝋燭の火をただ見つめていた夜に似ていた。思い出した。

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ただ、この光を見つめるという行為がとても大事なんだと思った。しっかりと光を見つめていればいいのだと思った。こうして思い出すことがたくさんあった。

『窓辺』が始まって、堪えてた涙が一気に流れた。うずくまってしまいたかった。私が音楽や映画や読書が引き金となって思い出すことといえばあの人のことばかりで私は相当あの人が好きだなと。この歌に出会えて良かった、音楽の素晴らしさを知れて良かった、と思う度に私は私と音楽を引き合わせてくれたあの人のことを想う。この人には感謝してもしきれない。

 

追憶、この歌は確か、初めてアヤノちゃんのライブを観た日に大号泣した歌で、ライブ中もその日の感情を思い出した。「きみはいつも死にたがった私を連れ出してくれたね」心にあの人がいた。本当にそうなのだ。いつも私を暗闇から連れ出してくれるのはあの人だった。私の中であの人の存在やあの人との思い出が強く強く光っていた。私は涙を拭くことさえできないまま、ただ泣いていた。今日もあの人の存在に救われた。

 

静寂と暗闇の中のステージで穏やかに降り注ぐ陽の光のように、時には力強くメラメラと燃える夕陽のように歌うアヤノちゃんは焚き火のようだった。静寂と暗闇も相まって長い時間焚き火を見ているような感覚だった。静かにゆらゆらと燃える小さな炎、めらめらと燃えて薪を覆うように大きくなる炎、炎が落ちついたころに薪が木炭になって淡く発光する様、どのようにも見えた。音楽のライブに来たことを忘れてしまうくらい、とても穏やかな気持ちだった。なんだか、空っぽの体に光に似た何かが注がれていくような感覚だった。満ちていく感覚だった。その度に私は泣いた。心が満ち足りたわけではなくて、なんだろう、もっと些細だけど重要な体のどこかに何かが注がれているような感じだった。

 

演出もとても良かった。カネコアヤノの照明が好きだ。今日はいつになく好きだった。窓辺を想起させるような照明が夕暮れのようにだんだんとオレンジになっていくのも良かったし、いつものあの映写機のような照明もたぶん私の思い出が蘇ってくることの手助けをしているような気がする。あの細かくてキラキラした光も静寂と暗闇の中にあるとまるで銀河のようでそこが壮大な空間に思えて良い。弾き語りになるとこれがさらに相乗効果を生んでいるなと思った。プロの流儀、流石だ。

 

どうやら新曲もやったそうで。ライブ中は私が聴き漏らしていた歌なのか?と思っていたけど新曲らしい。歌詞が好きだった。私の心を撫でてくれるような、許してくれるようなそんな歌詞だった。部分的にしか覚えていないけど、いいんだよ、曖昧な愛でいい、安心する声が聴こえる方へ、みたいなことを歌ってくれていた。今の私の心に優しく寄り添ってくれるような言葉が詰まっていた。いつもアヤノちゃんの歌詞は朧げな気持ちや自分自身の輪郭を縁取ってくれるようだなと思う。アヤノちゃんのライブは観た後に思い出したり気づく気持ちが多い。今日聴いた歌をまた聴ける日が楽しみになった。

 

今日は本当にきて良かった。昼間は心身の疲れに飲み込まれそうになっていて少しライブに行くのが面倒だと思ってたくらいだったけど、きて良かった。

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今起きていることも流れ着いた先であの人とまたお互いに見つめ合えればきっとそれで私は全てに納得できてしまって、許せてしまって、また息を弾ませるだろう。そんな気がした。大変な未来しかないわけないだろう。きっとそうだろう。一喜一憂、紆余曲折、心の漣、全てが無意味に思えること、明日からも何回だってあるだろう。でも大切な人や愛する人を大切にして愛していたいと思えているうちはまだ助かりようがある。この光を頼りに進んでいくしかないように思う。今日も大好きだと思える人がいる幸せをどうか忘れないでいよう。私たちはまたお互いを照らしあってその光の残像を目の裏に隠してお守りのように強く抱きしめて歩いていくんだ。

 

今日もお元気でしたか。雨には降られなかったですか。私はあなたを今日も想っていました。今日もあなたが同じ空の下に生きていることが希望となっていました。それは明日も明後日もこれからもそうです。今日もあなたのことが大好きでたまらなかったです。

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家に帰ってカレンダーが4月のままだと気づいて、5月の半ばにやっと私は4月のカレンダーをめくったのだった。これからも手はずっと痺れたまま。